審査員が一新され、WEBによる1審査のやり方も定着したことが、よい方向に働いたのではないだろうか。応募者数が1.6倍に増えただけでなく、写真作品部門の受賞者たちの顔ぶれにも新たな波が押し寄せつつあるようだ。何といっても目につくのは、上位入賞者に学生が多いことで、彼らの新鮮な発想と大胆な切り口が、 APAアワード全体の空気感を大きく変えつつある。その中でも、中国人学生たちの作品のレベルの高さには驚かされた。ここ10年余り、写真専門学校や各大学の写真・映像学科の学生に占める中国人留学生の比率は、急速に増加しつつある。そのことが、今回の審査にも多大な影響を及ぼしたのではないかと思う。
文部科学大臣賞を受賞した黄 麗穎も、今後を大いに期待できる中国人学生(武蔵野美術大学)の1人である。受賞作の「彼のこと、今でも知らない」は、写真の選択、構成が実に的確で、喪失感を感じさせるストーリーを織り上げていた。「Stratum in the closet」で東京都知事賞を受賞した中村羽菜には、卓抜なアイディアを、楽しげに実現する能力がある。金丸重嶺賞の星野 藍「ソビエトのバス停」は、技術力だけでなく、長期にわたる撮影の厚みを感じさせる作品だった。
奨励賞に選出された久田歩美、村上由希映、張 嘉桐の3人の作品もそれぞれ個性的で、次の展開が楽しみだ。学生賞の沈 叶蓁は、「Twin flowers in parallel」で、ややシュールな雰囲気の女性たちをカラフルな色味で描き出していた。
飯沢耕太郎賞に選んだ松下奈央は日本写真映像専門学校の学生で、意表をついた画面構成に見所があった。
次回以降の応募状況が、どんなふうに動いていくかはまだわからない。だが、今回の変革の波がこれで終わってしまうということはないだろう。おそらく次回は、今回の成果に刺激を受けた意欲的な作品がさらに増えてくるのではないだろうか。より大きな波紋が広がっていくことを期待したいものだ。
飯沢耕太郎
写真評論家