経済や文化の発展と共に『夢の〇〇』がある時から悪者に変わる事がある。夢の建材と言われ、軽くて加工が容易で断熱効果が高いと言われたアスベスト(石綿)が健康被害を引き起こすとして日本では使用が制限され、今や勿論悪者。また夢の乗り物として化石燃料を使う自動車からのCO₂も悪者になっている。夕方になると母親たちは『買い物カゴ』を片手に商店街に向かって行った。ずいぶん昔の頃だ。高度成長と共に消費文化の到来で、それが紙袋を抱えて帰って来るようになる。その頃の広告写真では紙袋を抱えた若いカップル、何故か袋の先からフランスパンが見える。これも森林破壊に繋がると紙の消費が制限された。やがてレジ袋に、正式にはプラスチック袋。来年から強制的に有料になる。やはり悪者となった。遅すぎる判断かもしれないが地球を守る為に正義に向かっているようだ。消費者も我々広告屋も知らなかったでは済まされない。エコの電気自動車も使用済みのバッテリー公害が心配だ。
その時代よって正義は変わる。少数なら見過ごせる事も大量になると凶器になることを教えられた。身の回りはデジタルで溢れて『文字を書く』より『文字を打つ』事が日常になった。今年の審査会場はモノクロ写真が目立った年だ。それも万年筆の写真が癒されると心に届いた。ノスタルジックを感じるより新鮮に見えた。溢れているデジタル化の日々を埋めてくれるような広告写真だ。基本がしっかりしたこのモノクロ写真は経済産業賞に輝いた。
特選賞は飛行機とファションに意外性があり、見せ方の妙技は流石だ。今回の審査会は全体に斬新な広告写真より情緒系の傾向が多かったように感じた。昔は全ての写真は広告写真になり得ると言われた時代があったが、今の世の中ではスマホで簡単に美しい写真が撮れる時代になった。広告写真は力強いメッセージをさり気なく伝え、それを見出す写真眼が要求されて来るだろう。

鈴木 英雄
公益社団法人日本広告写真家協会 副会長