FEATURE INTERVIEW APA編集部

水島大介 「おじいちゃんの写真集」

広告分野で活動するフォトグラファーたち。彼らが手がけたパーソナルワークを紹介するとともに、その制作秘話をインタビュー形式で語ってもらった。

 

今年5月「おじいちゃんの写真集」(青幻舎)を発表した水島大介。10年以上にわたり、祖父の生き様を撮り続けてきた。写真集には晩年までの2年間、祖父が丁寧に積み重ねてきた日常が収められている。

 

─おじいさんの人柄がわかるような写真集です。

水島 おじいちゃんは育てた野菜で料理を作ったり、畑から摘んできた花をお墓に供えたり、毎日が穏やかで丁寧な暮らしぶりでした。健康維持のために散歩や買い物にいって、近所の人と立ち話をしたり。禅語の中で好きだった「吾唯足知(われ、ただたるをしる)」を体現しているような生活でしたね。

とてもまめな人でした。毎日の覚書や気になった新聞記事をノートにまとめたり。天気の良い日には洋服の虫干しをしたり、庭で採れた八朔や金柑でジャムを作ったり、帰省した時には、摘んできた蓬でぼた餅も作ってくれました。

僕の両親は共働きで、幼い頃からおじいちゃん、おばあちゃんと過ごす時間が長かったんです。僕も愛していたし、それ以上に大切に可愛がってくれました。

水島大介

 

─被写体にしたきっかけは?

水島 きっかけになるような出来事は特にないんです。言葉にするのが難しいのですが…大好きなおじいちゃんと過ごす時間や思い出を残したいというのが一番の理由だったと思います。

写真を撮るとその瞬間のことがすごく記憶に残りますよね。写真として記録に残るのとは別に、シャッターを押した瞬間って不思議なくらい鮮明に記憶に残るんですよ。

撮り始めた頃は、おじいちゃんだけを追っていましたが、次第にその場の温度やおじいちゃんらしい雰囲気を感じるものにも、カメラを向けるようになりました。

おじいちゃんはカメラを気にすることなく、僕は良い構図を探すわけでもなく、ただただ時間や空気感をドキュメントする。その繰り返しでしたね。

水島大介

水島大介

─おじいさんがつけていた日記や自分史も収録しています。

水島 「なぜ自分史を書くの?」と聞いたら「俺が書かないと、誰も書けないだろう?」と答えていました。家族や次の世代の子孫に、自分の人生を伝えたかったんですよね。おじいちゃんは文章で、僕は写真で、水島宗男という人間の人生を残したかったんです。

 

─最期のお別れの時、お葬式も追っています。

水島 写真集を手にとってくださった方からたくさん感想をいただきましたが、多くの方が「写真集を読みました」とコメントをくれて。「見た」ではなく「読んだ」と。1人の人生を描いた小説のように読んでくれた方も多かったみたいです。

懐かしさや優しさに溢れているとか、人生とは何かをやさしく教えてくれる本とか。それぞれの立場や生きてきた環境、年齢などによって、いろんな角度から解釈や感想をいただいて、僕自身驚いています。

その中で友人が感想と一緒に、3歳の娘さんが写真集を見ている姿を動画で送ってくれたんです。娘さんはページを丁寧にめくって、お葬式のシーンにさしかかったら、ふっと悲しそうな顔をしていて。まだお葬式に出たこともないし、死を理解できない年齢なのに、写真集の中で起きた異変に気がついたようで。見終わった後に、裏表紙を小さな手で撫でてくれていました。その後、友人は娘さんと一緒に死ってどんなものなのかをお話ししたそうです。

 

─淡々と撮られた日常から彼女なりに死を考えたのでしょうか。

水島 ドラマティックなことは起こらないけれど、毎日を丁寧に繰り返し、やがて最期の時を迎える様子は、1人の人生のロードムービーとも言えます。写真集では最期の2年間を追い、春夏秋冬2回、2年間を写真集にまとめられたので、暮らしぶりを丁寧に描けました。

おじいちゃんはいつも、命をいただいているという意識で感謝しながら生きていたし、生きること自体にとても一生懸命でした。よく僕に「同級生48人のうち13人が戦争で亡くなった」と話してくれたんです。

僕らにとって当たり前にある平和な毎日は、大正12年生まれのおじいちゃんにとっては、当たり前ではなかった。だから、生きるということ、命があることの切実さが僕らとは根本的に違うのだと思います。

自分史や日記ノートの他に、自分がこの世を去った後のことを記した「必ず訪れるいつかの日のために」というノートを残していて。そこにはお葬式についてやお墓についてなど、自分が亡くなった後のことが残されていました。生きることに向き合うということは、死ぬことにもしっかりと向き合うということなのだと思わせてくれます。

僕たちは誰しも、100%の確率で死が訪れます。だからこそ、世代問わずたくさんの方に見ていただいて、それぞれの感想を抱いていただけたら嬉しいです。

水島大介

水島大介

水島大介 『おじいちゃんの写真集』
デザイン:田中せり・鈴木壮一/13,200円(税込)/A4変形(240×230mm)/青幻舎

 

水島大介 Mizushima Daisuke
静岡県掛川市出身。2009年より横浪修氏に師事。2012年独立。
http://mizushimadaisuke.com/

 

『コマーシャル・フォト』2022年10月号より転載