FEATURE FEATURE APA編集部

Kaz Arahama 「COLONY」

広告分野で活動するフォトグラファーたち。彼らが手がけたパーソナルワークを紹介するとともに、その制作秘話を語ってもらうインタビュー連載。

 

被写体は100円ショップで売られている商品。安全ピンや紙コップなど、工場で生産され大量に消費されていく「物」。普段、広告商品撮影の世界ではあまり主人公になることはないそれらを、時には整然と、時には無秩序に並べることで、まるで人間社会のような風景が見えてくる。Kaz Arahamaの新作は「COLONY」と名付けられ、2022年6月、BOOK AND SONS(bookandsons.com)で写真展が開催された。

─この撮影を始めた経緯をお聞かせください。

Kaz Arahama 広告の撮影は消費者やクライアントという明確なターゲットがあり、そこに向けて目指すべき完成があります。それはとてもクリエイティブな作業ですし、20年以上、広告の世界でスチルライフをメインにやってきた自分にも合っていると思っているのですが、広告というのは完成した写真がすべてじゃないですか。たとえば撮影では何十本もテグスを張って商品を固定したりしますが、撮影の過程は当然、隠さなくてはいけない。だけど、僕にとってはセットを組んだりすることも写真の一部で、とても楽しい作業なのです。  

そこにフラストレーションのようなものもあったのかもしれません。撮影までの時間の経過、空間の広がり、そこに至るまでの自分の気持ちの変化も含めて、レイヤーのように1枚の写真に集積したい。それをこれまで撮ってきたスチルライフというスタンスで表現したいと思い、行き着いたのが、100円ショップでマスで売られている商品を並べるという行為なんですね。

広告撮影でもターゲットに合わせて商品に人のイメージを重ねることはよくあるのですが、マスで売られている工業製品を大量に並べることで、それが人の集まりのようにも見えてきました。

─ライトは1灯ですか?  

Kaz Arahama 1灯で影を出すことを意識したライティングです。影があることで「物」が人のように見える場合もあれば、影の形で人々を動的にも静的にも見せることができます。光の加減によって影の方を主役にしたり、影と「物」を合わせてまったく違う形に見せたりしています。

─並べる作業は大変だったでしょう?  

Kaz Arahama 決めていたことがあって、できるだけ自分をニュートラルにして並べること。広告撮影のようなゴールは作らずに、まずひとつ、ポンと置いてみて、何が生まれてくるのか、自分の気持ちに向き合う。並べるだけで何日もかかったり、途中で崩れたりすることもありますが、ひたすら並べていくという単純な行為の中に、自分の気持ちの変化や発見があり、その時間の積み重ねには、なんとも言えない心地よさもあるんですね。  

被写体はパッケージから出したままの状態ではなく、その商品の特徴が一番現れていると思う状態で並べています。  指サックなら指から外して少し潰れた感じ、安全ピンなら針を広げて刺そうとしている状態。同じ形の工業製品にも個性が生まれ、ひとつひとつ「この人はどんな人なのか?」と想像しながら並べていくと、展示タイトルでもある「COLONY」ができあがっていく。無秩序に並んでいたものが秩序を持ち、また無秩序になる。その繰り返しを俯瞰で眺めながら作業をしていく感じですね。

─何か禅の修行のような行為ですね。  

Kaz Arahama 確かにそうですね。だから、この写真には「これで完成」というゴールがないんです。僕自身もゴールを考えて並べていない。現実的には永遠に並べ続けることはできないし、写真という四角いフレームに収めてしまえばそれで区切りはつくけれど、山登りと同じで、ひとつのピークを越えたら、また次のピークを目指したくなる。でも、この写真はそんな「もやもや」とした気持ちのまま終わっていいかなと思っていました。  

写真展ではこれまで撮ってきた写真25点を展示しましたが、写真のフレームの外にまで広がるコロニーの空間や、時間の流れを想像して、そして広告写真の枠から少し外れた、「物」に対するアプローチを見てもらえたのでないかと思います。

 

 

 

カズ・アラハマ
16年間のNY滞在後、2004年より東京を拠点にスティルライフ(静物)フォトグラファーとして雑誌、広告で活動中。直近の写真展としては、都市風景を独自の技法でスナップした「T o T <Towers of a Tower>」(2018年6月)がある。 www.kazarahama.jp

『コマーシャル・フォト』2022年6月号より転載