APA AWARD 2025 INTERVIEW apa_editor

APAアワード2025 金丸重嶺賞受賞者インタビュー

第53回日本広告写真家協会公募展 APAアワード2025は、2月22日(土)から3月9日(日)にかけて東京都写真美術館にて開催され、写真作品部門のテーマ『愛と平和』に呼応するかのように静謐な空気感に満たされた展示となりました。金丸重嶺賞に輝いた『表面張力』は、泥酔した人々の姿から日本特有の平和を感じさせ、技法のユニークさも目新しく感じた作品です。撮影したフォトグラファーの山下俊太氏に受賞作品についての思いを語ってもらいました。

写真作品部門 金丸重嶺賞

フォトグラファー:山下 俊太
「表面張力」 8枚組作品

独学で写真をはじめ、落選をへて作品に取り組む意識が変化した

 

 写真を始めたきっかけを教えてください。

山下 大学を卒業するまではずっと大阪にいて、就職と同時に東京に出てきました。現在は編集者として情報誌の制作に携わっています。写真を始めたきっかけは、大学の卒業旅行で海外に行くことになって、「せっかくだしカメラでも買うか」っていう、本当にただの一般消費者のテンションでしたね。

 最初はあくまで記録として撮っていましたが、続けていくうちに「表現」としての写真にも惹かれるようになってきたんです。好きな写真家さんの殆どが、フィルムで撮っていることに気づいて。それで社会人1年目のときにフィルムカメラを始めて、友だちと遊ぶときなんかにちょこちょこ撮っていました。本格的に独学で写真の勉強を始めたのは2年くらい前。せっかくだから作品撮りもしようと思って、コンテストにも応募するようになったんです。

 

 応募のきっかけは?

山下 好きな写真家のひとりが大和田 良さんで、過去に大和田さんが審査委員をされていたAPAアワードは意識していた賞でした。実は、前回のAPAアワードにも応募していたんです。でもそのときは落選で。今思えば、すでに持っていた写真のなかから「まあテーマに合ってそうかな」と無理やり選んだものだったので、落ちて当然かなという気もします。逆にその落選が、ちゃんと向き合おうっていうモチベーションになったかもしれません。今回は「このテーマで撮るぞ」と自分のなかで決めて取り組んだので、その意識の差は大きかったと思います。

 

 受賞作「表面張力」について

山下 これはもともと「お酒」をテーマにしたシリーズの一部なんです。酔っ払って記憶が飛ぶ時って、夜の繁華街で飲んでいたはずなのに、気づいたら朝の路上にいる…みたいな、タイムスリップしたような感覚が面白いなと思ったところから着想を得ています。受賞作はその「タイムスリップ後の世界」というか、空想と現実の狭間のような状態を表現しました。

 

 機材や技法について、教えてください。

山下 機材はMamiya RZ67 PRO IIという中判のカメラを使っています。スタジオ撮影向けに設計された機材なので、ストラップで持ち運ぶと首が痛くなるくらいに重いんです。これを持って始発で渋谷とか新宿に行って撮っていました。僕が影響を受けているのは昔の写真家が撮っていたようなスナップで、一般人の顔も普通に写っているリアリティのあるものなんです。でも今は肖像権に慎重にならなきゃいけない時代なので、顔が映らないように気をつけつつ、顔出しの写真は知り合いの役者さんにお願いして撮ってます。

 この作品、もともとは液体を垂らしてないバージョンで別のコンテストに出して、データ審査は通ったけどプリント提出の段階で落ちてしまったものなんです。返送されたプリントを眺めながら、「これ、なんかに使えないかな。いっそ、物理的にお酒を垂らして撮ってみよう」と。ちょっとしたリサイクルのような、リベンジのような試みです。炭酸の感じや立体と平面の交錯が意外とグラフィカルで、可能性を感じて制作したのがこの作品です。

 ただ、わざとらしい感じにはしたくなかったので、基本は一発撮りです。というか、実際のプリントにお酒を乗せているので、シミになっちゃうから失敗できない(笑)。液体のおもむくままを観察しながら、もともとの写真の色合いが変わらないように気を配って撮影しました。

 

自分なりのユーモアを表現したい

 

 APAアワードには毎年テーマが設けられています。今年のテーマ『愛と平和』をどのように作品に落とし込みましたか?

山下 酔いつぶれている人を見たら、ちょっと心配になるじゃないですか。世界では各地で紛争が起きているけれど、日本の平和や治安のよさはストレートに表現したい。そういった意味では、たとえば人の足だけが見えている写真には、血を連想させるような赤い液体を垂らして、不穏さを感じるように仕掛けています。

 

 「愛」についても、色々な形がありますよね。友情だったり、恋人だったり、仕事仲間の絆だったり。それぞれの関係のなかに存在する「愛」を表現したいと思いました。役者さんを登場させる場合も、実際のカップルや役者仲間として仲のいい方々など、設定はフィクションでも関係性においてはリアルな愛の要素が反映されるようには気を配っていて。本物を表現したいという点にはこだわりましたね。

 

 

 自己表現の手段が多様化するなかで、「写真」を選んだのはなぜでしょうか?

山下 シンプルに「撮れば作品になる」っていう手軽さが大きいかもしれません。僕は楽器も弾けないし、絵も描けないし。でも写真なら、視点ひとつで勝負できるかも、と思える表現であることは、写真の大きな魅力だと思います。

 撮る対象としては、「違和感」があるものが好きです。今回のシリーズも、酔い潰れた人が道端に寝転んでいるのに、周りの人が全然気にせずスルーしているのが面白くて、コンパクトカメラで撮り始めたものなんです。最近だと、駅のホームにリンゴが落ちていて、「なにこれ?」って撮ったり。前後のストーリーがまったく見えないけども、気になるものがあったら撮りたくなる傾向がありますね。編集者という仕事柄かもしれませんが、ビジュアル面や情報の切り取り方など、どこかには「自分なりのユーモア」を表現したいなと思っています。

 

 今後の創作活動について、教えてください。

山下 出身が大阪だからかもしれませんが、「写真でお笑いをやりたい」と思っているかも(笑)。大喜利というか、自分ならではの発想や視点で面白いと思ってもらいたいというか。今回の作品はすごくアナログな手法なんですけど、展示を見に来てくれた方から「これデジタルじゃないの?」などの感想が聞けたりして、そういう議論を生む写真を撮り続けたいなと思います。まずは撮り溜めた作品をZINEにまとめたりして、いずれは個展も開けたらいいなと思ってます。

そういえば先日、京都グラフィー(京都国際写真祭2025)で初めてポートフォリオレビューを受けたんです。とあるレビュアーさんにこの作品のある1枚を指して、「これ演技でしょ」と言い当てられて、驚きました。本物を見ている人にはわかるんだなと恐ろしくなりましたし、いい機会でもありました。

 

 応募を考えている方に向けてメッセージをお願いします。

山下 僕は写真初心者からのスタートでした。どういうテーマで撮るか、どんな表現で挑もうか、どこにこだわるか――応募するまでのプロセスでこそ、表現者としてのアウトプットが鍛えられると思いました。応募するまでのプロセスは全員平等です。だから、まずは挑戦してみることだと思います。

 

 

やました・しゅんた

1993年生まれ、大阪府出身。2017年大阪大学人間科学部卒業。出版・マスコミ業の会社員として勤務する傍ら、家族写真や映像作品のスチールなどを撮影。

Instagram @shu.nstagram

インタビュアー:青山 波瑠香
2025年4月16日(水)APA事務局にて実施

会場写真:星野耕作(APA正会員)