APAアワード2024 東京都知事賞受賞者インタビュー
写真作品部門 東京都知事賞
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フォトグラファー : 中村羽菜
「Stratum in the closet」 4枚組作品
“衣服”は個性が蓄積された地層である
応募のきっかけを教えてください。
中村 コンテストへの応募は今回が初めてでした。APAアワードの名前は知っていましたが、たまたまInstagramで募集期間であることを知ったことが、直接のきっかけです。テーマ「記録と記憶」が自身の研究テーマと一致していたので、この機会に応募してみることにしました。
受賞作「Stratum in the closet」について
中村 私の研究テーマは「顔を写さないポートレート」。元々は一般的なポートレートを撮っていたんです。しかし近年、ルッキズムやボディシェイミングへの批判的意識が高まるなかで、被写体のプライバシーを守りつつ、被写体らしさを表現することはできないかと模索するようになりました。被写体の個別性は、顔に限らず、その人の経験や選択の蓄積といったものに現れるのではないか――そう考えるようになったんです。
タイトルを直訳すると「クローゼットの中の地層」。私たちが所有する服は、選択の蓄積です。“この時この柄が好きだったな”“こんな服買ったけど気に入ってないから奥のほうにあるな”など、選択や経験の積み重ねが反映されたクローゼットが、まるで地層のようだと思ったことから発展させました。
制作手法について、教えてください。
中村 まずは被写体のありのままの部屋を撮影し、その写真を実物大に引き延ばしたものを、スタジオで組んだ大きな木枠に貼ります。そのセットのなかで、今まで着ていた服を重ね着した被写体を撮影しました。ある種、文化人類学的な儀式に見えるものを、被写体の私物で作るという試みです。現代の妖怪のようなものですね。
顔が写っていなくても、その人らしさを写真表現で表したかった。なので、作品を見た人が被写体がどういった人物なのか、あれこれ考察してくれるのを間近で見ることができたのは嬉しかったですね。
受賞を知った時はどのような気持ちでしたか?
中村 郵便を受け取った時は実家にいました。母が封筒を持ってきたのですが、応募したのを実は忘れていて(笑)。なんだろう?と思いながら開けたらまさかの受賞の通知で、母と一緒に大喜びしました。
受賞したことで、心境の変化などはありましたか?
中村 今までは、「フォトグラファーです」と名乗るのを躊躇する気持ちがありました。大きな賞をいただけたことで、自信をもってフォトグラファーです、と言えるようになったのは、私としては大きな変化かなと思います。
写真を始めたきっかけは?
中村 純粋に写真を撮りたいという想いがあり、多摩美術大学に入学しました。写真は孤独な創作というイメージがあったのですが、いざ学びながら写真を撮っていくと、被写体のコミュニケーションが欠かせないことを知りました。それが不思議でならなくて、もっと深く写真を知りたい、もっと撮りたいという気持ちで、どんどんのめり込んでいきました。
ポートレートは被写体の個性を映し出す鏡であると考えています。写真を見た時に、被写体のもつ個別性が鑑賞者に伝わるものが本質的に良いポートレートだと思うんです。ただ、顔が写っているとその人物の顔にしか目がいかないんですよね。あえて顔を取り除くことによって、それ以外の部分に目がいくようになるんじゃないかと考えて、このスタイルに行きつきました。
今後の写真活動について、教えてください。
中村 まずは個展を開きたいです。受賞作品と同じテーマで手法を変えたシリーズが他にもあるので、それをまとめて展示できたらいいなと思っています。現在は大学の研究室助手をしているので、当面は働きながら制作をしていく予定です。
APAアワードへの応募を考えている方へ、メッセージをお願いします。
中村 やはり、悩むくらいなら思い切って応募することをおすすめします。もし選に漏れたとしても、何かが失われるわけではありません。「愛と平和」のテーマに共感する方は、ぜひためらわずに応募していただきたいです。
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なかむら・はな 1999年生まれ。2022年、多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース卒業。2024年、同大学大学院卒業。 Instagram:@hana_hands |
インタビュアー:青山 波瑠香
2024年7月24日(水)APA事務局にて実施