「写真をみる」report 1 APA AWARD apa_editor

APAアワード2024 写真作品部門 審査委員長 飯沢耕太郎氏インタビュー

オンライン審査からプリント審査まで全応募作品を見て、審査を疑似体験してもらいながら「写真をみる」ことについて考えてもらう本年のアワード企画。まずは、その第一弾のレポートとして写真作品部門審査委員長の飯沢耕太郎氏へのインタビューを行った。インタビュアーは、写真制作と写真にまつわる文章を発表しているエズミユウシさん(※プロフィールは頁下段参照)。エズミさんが審査の疑似体験を通して考えた「賞の審査と写真を見ること」を軸に話を伺った。

 

ー ある時代の変わり目

 

 COVID-19によるパンデミックが定義上一応の終わりを迎えてから初めての審査でした。全体としてはなにか印象というものはありましたか。

飯沢 そうですね、ある時代の変わり目ということと、僕もAPAアワードの写真作品部門の審査は久しぶり、だから心を新たにして作品を見るっていう気持ちがあった。審査員一新されたことで、応募者の側も意欲がかき立てられるっていうことがあったと思うね。だから面白い作品がたくさん集まって、審査をしながらすごく楽しかったということがひとつ。それともうひとつ驚いたのは、いわゆる上位12の賞のうち8人が学生なんですよ。これはちょっとすごいなと思います。つまり新しい世代の新たな感覚というか、そういうものがはっきり見えてきていて、それに我々審査員も反応したってことですから。学生がこれだけ賞に選ばれるってことは、これまでもあんまりないことだと思うんですよ。それが非常に大きな特徴だったと思います。

飯沢 それともうひとつ非常に印象深かったのは、その12の賞のうちに中国の方が3人入っていた。これは(審査委員)皆が驚きました。これも今回の賞のひとつのトピックじゃないかと思いますけどね。

 

 今回の受賞作品に限らず、留学生はどっしりと重みのある、すごく重厚なドキュメンタリーを撮るというイメージがあります。

飯沢 中国の人たちは異文化の中で写真を撮るってことに対してすごくモチベーションが高い人が多いんだよね。あと彼らの伝統とか文化とか、そういうものってのを背負ってる。ドキュメンタリー的な写真は中国の写真の伝統の中にもあるから、それは当然といえば当然なんだけど、それだけでもなくすごく幅が広がってきてる。日本の写真家たちの作品に影響を受けて、そこから吸収したものを自分で出していくってこともあるよね。

文部科学大臣賞を取ったのは黃麗穎さんという武蔵野美術大学の学生なんだけど、彼女の記憶をたどっていくという作品のあり方は、これまで日本の写真家たちがいろんな形で積み上げてきたこと。日本の写真のあり方と中国の彼らのバックグラウンド、それが非常にうまく融合してるんじゃないかと思います。今回のテーマにも非常に合っていました。

 

 

ー 写真を見る目を賞の審査によってどんどん磨いていくということ

 

 今回の写真作品部門の募集テーマが「記録と記憶」ということですので、飯沢さんが初めてコンテストの審査員をされたときの経験について教えてください。

飯沢 なんだろうね。あまりよく覚えてないんだけど、80年代から写真評論家として活動していく中で、時々審査員を頼まれることはありました。富士フォトコンテストとか、それからいわゆる県展。都道府県でやっているアマチュアの写真家のコンテストですね。他にも高文連という高校生のコンテストやったり、いろいろな積み上げがあるんだけど、やっぱり僕にとって印象深いのはね、1990年代以降なんですよ。1991年に写真新世紀(キヤノン)が出来て、92年からひとつぼ展っていうリクルートのコンテストが始まって、そこで写真のコンテストのあり方ってのはかなり大きく変わったんです。その立ち上げのときから関わってるので、やっぱり90年代以降の新世紀とひとつぼ展、その後は1_WALLって名前になったんだけど、そのコンテストが一番印象深いかな。

 

 インタビューに合わせて、過去の公募展記録を読み返してみました。その中で飯沢さんが「審査員が逆に審査されている」ということを何度も書かれているのが印象的です。

飯沢 公開審査っていうシステムを写真新世紀とひとつぼ展が作ったんです。そのとき喋ったり選んだことが全部明るみに出てしまうからやっぱ怖い。そこで選ばれた人はいいんだけどさ、選ばれなかった人がずっと覚えていて、10年後ぐらいに会ったときに、あのときこう言いましたよねとか言われたり。だから審査員が審査されてるみたいな感じ、そういう気持ちはずっとありました。

飯沢耕太郎賞とか、文部科学大臣賞とか審査委員長賞とかいう形で責任があるわけじゃないですか。これは常々自覚はしてますよ。だから、選んだ人に対してはその後もフォローしながら責任を取っていくことは必要なんだろうなって思うんです。ただ僕もいろんな賞をやっていてすべてをフォローできるわけではないから、時々すみません、みたいなことに(笑)

そういうことの積み重ねから、変な言い方だけれど、審査員も鍛えられるっていうのかな。写真を見る目を賞の審査によってどんどん磨いていくということはあるわけだ。鍛えられて審査員として立派になって、選ばれた人は写真家としてキャリアを積み重ねていく、そういう相乗効果があるんじゃないかと思います。

 

 過去の様々なコンテストや賞に寄せられた飯沢さんのコメントを見ると、選ばれなかった方に対する目線が常にあることに気が付きます。賞に応募する際には、応募者の方々はそれぞれの切実さを持って応募していると思いますから、選ばれなかった人に対するコメントがあるということに、変な話ですがすこしホッとする感覚がありました。

飯沢 選ばれた人はきちんと評価されてすごく嬉しいだろうけど、ただ本当ギリギリのところで選ばれなかった人ってたくさんいるわけだから、その人たちを忘れちゃいけないなってちょっと思ったりしますよね。まあ全員はフォローできないけどね。気になる人って確かにいるんですよね、そのときそのときで。

これは賞の性格によるんだけど、APAもそのうち落選展をやっても面白いかもしれないね。ここでは選ばれなかったけれど、その後もとてもいい仕事をしてる人たちみたいなね、そういうことをやってみると、なかなか賞としての厚みが出てるんじゃないかな。

 

 

ー ポジティブなきっかけ。ネガティブなきっかけじゃなくて。

 

 普段は応募する側の私が、今回擬似的に選ぶ側の目線を体験して、コンペや写真賞は本当に特殊な場だというのを強く感じました。コンペは特殊な場だからそんなに気落ちしなくてもいい、みたいなことを思いました。

飯沢 いや、それは逆かもしれないよ。つまり気落ちした方がいいと思う。自分へのある種の客観的な評価が出てくるわけだから。選ぶのにも理由があるけど、やっぱり落ちるのにも理由があるんですよ。そのことを考えないと先に進めないじゃない。

自分では自信があったのに駄目だったという人でも、実際に選ばれた人たちの作品を見て比較しながら、よくよく客観的に見てみるとちょっと弱いというか、選ばれなかったそれなりの理由が見えてくると思うし、次はこうやろうって考えられる。

コンテストを成長する場みたいに考えてもらうといいと思います。だから選ばれなかったからといってがっかりする必要はなくて、そこから次にステップに持っていくためのきっかけになるといいなといつも思っていますね。

例えば木村伊兵衛写真賞だとか、文芸で言えば芥川賞もそうだよね。そのときはすごく脚光を浴びても、そこから後、脚光浴びない人もいるし、逆に次点ぐらいだった人がガーッと伸びる場合もあるわけだから。だから何事も賞というのをある種のきっかけとして考えるといいと思いますね。ポジティブなきっかけ。ネガティブなきっかけじゃなくて。

 

 一歩踏み込んだ話になるのですが……誰かが写真を選ぶ、応募されてきた写真を選ぶという伝統が日本の写真の歴史の中にはあるのではないか、ということについて考えてみたいんです。審査員が写真を選んで、その選んだ写真をまた人々が、選ばれたという前提で見るってことについて飯沢さんのご意見をお聞きしたいです。

飯沢 そういう構造が出てきてしまうということね。これはしょうがないことではあるよね。いわゆる権威みたいなもの、パワーになってしまうとでも言うのかな。
選んだっていうことがある種の力になって、その人にとっても写真の世界にとっても、かえってマイナスになるようなことってのもないわけじゃないんですよ。だけど、あらゆることにそういうプラスマイナスってあるじゃないですか。だから賞にも、もちろんプラスマイナスがあるんだけれど、それでもやっぱり選んだ方がいいし、選ばれた方がいいというふうに思うんですよ。

飯沢 選ばれることでなにかが変わってくるという可能性を、選ぶ側も選ばれる側も信じるしかないだろうと、そう思います。

 

 ここまでお話を伺って、APAが長い間一つの団体の名前の下に同じ形の写真賞を続けていることで、学生の数が今年増えたとか、留学生の活躍とかそういったことが見えてくる、フォーマットが変わらないことによってポジティブな変化に気がつくことができる…ということも感じました。

飯沢 なるほど、それはあるかもね。自画自賛みたいになるけど、今回でAPAアワードの持ってる存在感がかなり上がったというふうに僕は思います。応募点数も増えて、それから若い人たちが応募してきてるってことも含めて、とてもいいことだと思う。

飯沢 とにかくある変わり目に来てることは間違いないので、もし次も審査するとしたらすごく楽しみです、次回はどうなってくのか。

 

 本当に面白い話ばかりでした。本日はありがとうございました。

 

審査会撮影:Ryushi 

 

 飯沢耕太郎氏インタビュー動画公開

上記レポートに書き起こさなかった飯沢氏がこれまで関わった審査会でのエピソードを盛り込んだ内容になっています。約17分ありますので、今後の公募展応募のためや作品作りの参考に是非ご覧ください。


動画撮影・編集:馬場亮太

 

インタビュアー:エズミユウシ

Profile

写真を用いた制作を行う傍ら、「写真について」という小冊子を制作・配布している。その他、展覧会レビューや、未邦訳文献の一部邦訳と解説、映画の紹介・上映会など。

web site:https://outta.portfoliobox.net/
Twitter:https://twitter.com/Wassionate
note:https://note.com/wassionate/n/na1d023489cd0