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APAアワード2024 文部科学大臣賞受賞者インタビュー

第52回日本広告写真家協会公募展 APA AWARD 2024は、2月24日(土)から3月10日(日)にかけて東京都写真美術館で開催されました。写真作品部門の入賞・入選全80作品がパネル展示され、若々しい息吹が感じられる展示となりました。その中でも、文部科学大臣賞に輝いた「彼のこと、今でも知らない」は、写真の選択、構成が的確で、喪失感のあるストーリーを織り上げた作品でした。撮影したフォトグラファーの黄 麗穎氏に、受賞作品についての思いを語ってもらいました。

写真作品部門  文部科学大臣賞

フォトグラファー : 黄 麗穎
「彼のこと、今でも知らない」 8枚組作品

過去と現在、記憶とイメージの隙間から、
兄の「不在」を写し出す

 

  応募のきっかけを教えてください。

 私はもともと自分に自信がなく、コンテストに応募するのも今回が初めてでした。2024年のテーマ「記録と記憶」は私が今撮っているシリーズとリンクするし、武蔵野美術大学の菅沼比呂志先生 から勧められたこともあり、応募することにしました。

APAは大きな賞ですし、学校にポスターが貼ってあったので、毎日ポスターを見るたびにやる気を上げていきました。でも自信がなかったので、送信する時はとても緊張して……。結局、最終日の締め切り間際に送りました。

 受賞作「彼のこと、今でも知らない」について

 このシリーズは以前から撮りためていたものの一部です。私は中国の一人っ子政策時代に生まれましたが、母は私の前にもう1人、子どもを妊娠していました。その子は死産だったのですが、このシリーズはその子ども、つまり私の兄がテーマです。もし彼が生まれていたら、私はきっとこの世にはいないでしょう。 

私が生まれた地域では、母親の胎内で亡くなった子どもは仏様の眷属となり、前世の因果により一時的に私の両親と縁がつながったが、また仏様の元に戻った、と解釈されます。母はその言い伝えを心から信じていて、毎年地元の霊所にお詣りをするのです。私はその度に兄との精神的なつながりを感じていましたが、中国にいる間は、それは家族のなかの事象だと思っていました。兄のことと一人っ子政策を結びつけて考えることはなかったんです。 

私が日本に渡ったのちに、中国では一人っ子政策が緩和され、2021年には3人まで子どもを持てるようになりました。この政策転換は驚きをもって受け止められ、中国出身者の間ではネットで活発な議論が交わされました。私も発言するなかで兄の存在を強く意識するようになり、「彼の存在を時代の流れのなかに埋もれさせたくない。撮りたい」と思い、このテーマで撮影を始めました。 

途中はコロナの流行による渡航制限で、制作が思うように進まず大変でした。変化していく地元の風景や実家、家族を、中国に帰省するたびに約1年半をかけて撮影していきました。 

撮るうちに新しい発見やアイデアが生まれてきて、撮影自体は順調でした。その分、編集が大変で……。一人っ子政策など、中国の社会情勢に詳しくなくても伝わるように、日本人の友人にどんな見せ方がわかりやすいかなどのアドバイスをもらい、完成したのがこのシリーズです。

 受賞を知った時はどのような気持ちでしたか? 

 実は発表されてから受賞を知るまでにかなり時間があいていて。事務局から名前の漢字表記についての質問のメールが来たので、友人に「これってどういうこと?」と聞いたら、「おめでとう!受賞してるよ!」と言われて本当に驚きました。正式な結果は郵便で届いていたのですが、郵便ポストを全然見ていなかったので、受賞したことを知らなかったんです(笑)。だから受賞を知った瞬間は、嬉しさよりも驚きのほうが大きかったですね。

 周りの反響はいかがでしたか?

 両親には電話で報告しました。電話越しでも本当に嬉しそうにしているのが伝わってきて、そこで初めて自分でも実感が湧きましたし、感動しました。 

このシリーズは卒業制作として取り組んだものなので、80枚以上あるんです。APAアワードへの応募の際はコンセプトの添付もせず、8枚を選んだのですが、写真だけを見てこの作品を選んでいただけたことが嬉しかったです。

 

 

この時代を記録していく

 

  写真を始めたきっかけは?

 もともとは絵を描くためでした。絵の素材を撮るために購入したカメラでしたが、だんだんと写真のもつ瞬間性に惹かれていきました。直感的な、すぐに満たされるような感覚がとても好きで、写真の道に進みました。 

 黄さんは中国からの留学生ですが、なぜ日本で写真を学ぼうと思ったのでしょうか。

 中国の大学の写真学科を志望していたのですが、行きたかった大学には身長制限がありました。中国のフォトグラファーは写真を撮るだけでなく、映画などの映像制作に関わることも多いため、力仕事が多いという理由で身長制限は珍しくありません。そういった制約があったため、写真を学ぶためには海外に行くことが自然な流れでした。 

私たち世代は、SNSで日本人の写真家をたくさん見ています。最初に買った写真集は川島小鳥さんの「未来ちゃん」。温かみがあり、感情に訴えかける写真に惹かれるものがありました。欧米の写真家さんは構図がバッチリ決まっているものが多く、私にとっては冷たいと感じてしまうんです。それと、子どもの頃から日本のアニメを見ていたので日本語もなんとなくわかるし、なにより距離的に近いから両親も安心だろう、と。そういった理由で、留学先は日本を選びました。 

 今後の写真活動について、教えてください。

 以前は、シャッターを押したくても、うまく撮れるかどうか不安でためらうこともあったのですが、今は自分を疑うことはなくなりました。受賞したことが自信につながったおかげですね。新宿のニコンプラザで展示をすることができ、多くの方々と会話するなかでコミュニケーション力も上がったのも良い経験になりました。 

これからもこのシリーズを続けたいと思っています。日本に来た時に、日本人が当たり前のようにきょうだいの話をするので、すごく驚きました。私たち世代の中国人は一人っ子ばかりなので、きょうだいの話題にならないんです。世界のなかでも、中国の他の世代とも違う状況で生まれた私だからこそ、この時代を記録していく意味がある。中国の友人も、一人っ子であるという共通点はありますがそれぞれ違った経験をしています。その物語を時代の記録として追い続けていきたいです。 

 APAアワードへの応募を考えている方へ、メッセージをお願いします。

 悩むよりも先に行動するといいと思います。何を撮ったらいいかわからなかったり、自信がなかったりしても、まずは好きに撮るのが一番。

カメラは持っているだけではだめで、どんどんシャッターを押してほしいです。きっと新たな発見があったり、アイデアが湧いてきます。

 

 

こう・れいえい

1998年、中国・四川生まれ。2022年、東京工芸大学写真学科卒業、2024年、武蔵野美術大学映像・写真コース修士修了。

HP huangliying.com
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インタビュアー:青山 波瑠香
2024年7月4日(木)黄氏個展開催中のニコンサロンにて実施