審査委員が語る、アワード応募の醍醐味とは
今年の写真作品部門 募集テーマは『 私の写真 』。写真作品部門最高賞 文部科学大臣賞 賞金として100万円が贈呈される。
9月募集開始にあわせて、APAアワード事業部の審査委員5名に応募者に期待することや、アワード過去受賞者としてアワード受賞から得られたことなど2つの目線で語ってもらった。
北島 作品テーマも発表され、いよいよ9月から応募がスタートします。作品応募受付開始に向けて、皆さんにお集まりいただき、審査時の着眼点についてなどお話をうかがいます。
僕も含め、みなさんは表現者でありながら、審査委員として作品をジャッジする立場ですが、審査する上で何を決め手としていますか?
平野 僕の場合は「好き」なものを選んでいます。そうじゃないと、僕が審査委員になる意味がないと思いますし。
大和田 個人賞では好みが出てくると思いますが、第一選考段階では撮ったときの感動、情熱がダイレクトに伝わってくる熱量のあるものを残したいと思いながら見ていますね。
舞山 審査ですごくいい写真だと思っても、どこか既視感があるものも中にはあるんですよ。もし既視感を感じたとしても、元の写真を超えるような…進化を感じさせてくれる作品ならば気にならないのかもしれませんが、そのまんまだな……って感じることも実は少なからずあるんですよね。
吉村 審査する側も緊張感がありますよね。テーマがあるなかでも、独創性、誰が見てもその人の個性が出ているような作品に惹かれます。
平野 入賞・入選作品は、制作側のバックボーンも含めて、パワーを感じる作品が多いですよ。その作品にたどり着くまでのストーリーや、その人のキャラクターが面白いかどうかも含めて見ていきたいので、選ぶ側としては不安がつきまといます。とても難しいところではあるのですが……。
舞山 単写真で応募の場合、組写真と違って、そのバックボーンが見えづらいのは少し不安になりますよね。たまたま上手く撮れた写真もあるだろうし。確固たる写真の力や撮影技術があったり、見たことのないような新しさを感じさせたり、いくつかの要素を満たしたときに受賞に至るのだと思います。
受賞によって得られる実績と信頼
北島 みなさんも過去は応募する側として様々なアワードへ参加されていたと思いますが、応募・受賞後の変化など経験を伺いたいです。
吉村 僕はAPAアワード受賞を目指して作品作りをしている時期がありました。制作に入る前の段階から、既に僕自身のレースが始まっていましたね。良い経験ができたと思います。受賞後は、仕事に直結というよりは、自分の名前を多くの人に知ってもらえたことが大きかったです。
平野 作品はフォトグラファーにとって「希望」と言いますか…自分がやりたいことの原型ですからね。仕事を作品寄りに近づけたいし、その発表の場として応募するのはアリだと思います。受賞を目指すことで自分自身に発破をかけ、自分を奮い立たせるということにも意味があると思います。アワードで自分自身の力を試すということは嫌いではないですし、今後も応募していくつもりです。
大和田 僕の場合は、美術やアートの方面の公募や海外アワードに出すことが多かったです。受賞や入選は実績としてプロフィールに入れることができますし。フォトグラファーや写真家って免許も資格もないので、APAアワードで賞を獲っていれば自分の写真に対して信用のひとつになりますよね。実はファインアートの世界では、「何を撮って、どこでお金もらっている」かが明確でないと信用されない面もあるんです。
舞山 大和田さんが出していたアート系のアワードのほうが今は主流かもしれませんね。もしかしたら仕事にも直結しやすいのかもしれない。
北島 大和田さんは写真専門学校で生徒さんに教えていますが、写真家を目指す若い人たちにどんなことを伝えていますか?
大和田 写真以外に興味を持てということですね。面白い視点を持っているとか、生き方が面白い人の写真はやっぱり面白いんです。写真、カメラが好きというだけではダメで、外の世界に興味を抱いて「見る」ことが大事だと思います。
北島 今は昔に比べて広告や写真作品の境目がなくなってきたと言われていますね。
大和田 どこまでが広告なのか、どこまでが写真なのか、それを再定義できる団体はAPAだけだと思います。「コマーシャルとしての写真とは何なのか?」を定義できることがフォトグラファーが生き残る唯一の方法でもある。
ファインアート、広告の垣根が消えて、広告やコマーシャルフォトグラファーと呼ばれる者の生き方やどういう写真家を指してそう呼ぶのか? という意義そのものをAPAアワードで伝えられればいいと思いますね。それには、このアワードから新しいコマーシャルの分野を拡大していくような写真家が現れるのがひとつの方法だし、そういう人を発掘できる賞にできたらいいと思います。
写真家の仕事としてコマーシャルがベースにあって、そこで賞を獲れたことが強みになる。写真家の仕事の枠が広がる中で、それが賞に反映されると未来が作れるし、コマーシャル写真を再定義できると思います。
平野 APAアワードは大きな夢を掲げて、粛々と作品を作ってくことで若い人も参加しやすい公募だと思うんですよ。このアワードが「夢を語れる場」になり、作品に関して自分らしい価値観で追求し、それが評価につながっていくようになったら嬉しいですね。
吉村 写真部門、広告部門と分かれていますが、僕としては「広告写真家になりたい」という人の思いと結びついて欲しいなと思いますね。目指すものがはっきりすると、アワード自体の意義も大きくなるはずです。
北島 応募者に期待することはどんなことでしょうか?
平野 APAアワードは毎回テーマが設定されていますが、お題に縛られて考えるのではなく、まず作者の個性が見えてくる作品を作ってほしいですね。
舞山 今年のテーマは「私の写真」なので、自由度が高く個性を出しやすいテーマになっていると思います。
吉村 テーマがあるなかでも、独創性、誰が見てもその人の個性が出ているような。うまく収めるのではなく、チャレンジが見たいです。
舞山 前回からWeb応募を開始したことで、写真を見せる方法もプリント以外の新たな表現が加わったと言えます。今年の新しい点といえば、写真作品部門最高賞である文部科学大臣賞 賞金100万円としたことですね。受賞者の将来にダイレクトにつなげて、新しい表現者を育てていけるよう今後もさまざまな可能性を模索していくつもりです。
北島 本日はありがとうございました。
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北島 明 APAアワード事業部副部長 福岡市生まれ。九州産業大学芸術学部写真学科、卒業。 |
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舞山 秀一 APAアワード事業部部長 広告、CDジャケット、雑誌、写真集など人物の撮影を中心に活動する。 |
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平野 タカシ APAアワード2022 写真作品部門審査委員 |
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吉村 白鳥真太郎氏に師事。独立後に (株)ヨシムラシャシン設立。広告写真家として活動しながら世界各地と日本の風景・人物をシネマスコープサイズにて撮り続けている。 |
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大和田 良 仙台市生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院芸術学研究科メディアアート専攻修了。2005年スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50 Photographers of Tomorrow」に選出され以降国内外で作品を発表。著書に『prism』、『ノーツ オンフォトグラフィー』、『FORM』、『写真を紡ぐキーワード123』等。2011年日本写真協会新人賞受賞。 |
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APAアワード2023 応募受付期間
2022年9月1日(木)〜9月30日(金)
APA AWARD2023 公式ポスター