APA AWARD2022 受賞者インタビュー APA AWARD APA編集部

受賞作は、写真の道へと奮起させてくれた1枚だった

APAアワード2022 写真作品部門 文部科学大臣賞を手にした益 健二さん。780作品2087枚の応募の中から最高賞に輝いた受賞作「ワタシノミチ」が生まれた経緯や写真を始めるきっかけについてなど益さんに語ってもらった。

偶然の重なりから生まれた受賞作

ー受賞作品「ワタシノミチ」について教えてください。

 計算して撮ったものではなく、偶然の産物から生まれたものなんです。
ある時、中学生くらいの女の子が周りを気にすることもなく、前だけを見て中央分離帯を歩いているのを見かけました。

その様子がとても尊く見えて、僕はファインダーも覗かず、シャッターを切った。
撮影後写真を見返した時に、これはまさに「ワタシノミチ」だなと。彼女が実際はどんな性格をしていて、何を思っていたのかもわからないけれど、女の子がまっすぐに自分の道を歩んでいく…そんなストーリーを描いたんですよ。

普段カメラは持ち歩かないのですが、この時はたまたま持っていた。そういう偶然も含めて生まれた作品です。このシチュエーションに出合わなかったら絶対に撮れない写真。全ての偶然に感謝しています。

「ワタシノミチ」というタイトルは、彼女へあてたものでもあり、実は自分自身にあてた言葉でもあるんです。僕、すごいネガティブ思考なんですよ(笑)。自分の写真について他の人から何か言われると必要以上に落ち込んでしまうタチで。

光が差す方に向かって歩いていく彼女の姿が、写真に対してナーバスになっていた僕を奮起させてくれました。

ーAPAアワードへ応募のきっかけは?

 勤務先の広告写真・映像の会社では、社内のフォトグラファーは全員参加することになっていて、僕はこの1枚を応募しました。

受賞通知が届いた時、すぐには信じられなくて。間違いじゃないかと思ったくらいです(笑)。審査員の方々に選んでいただいて、とても嬉しかったです。

受賞後、賛否両論たくさんの感想をいただきましたね。僕にとっては特別な写真でも、第三者から見たら単なる日常のスナップショットにしか見えない…かもしれないし、共感してくれる人もいるかもしれない。答えはなかなか出ませんが、この作品で受賞したことで、自分が進むべき方向や写真について改めて考えるきっかけになりました。

 

「普段撮っている作品は、受賞作とは全く真逆なんです」

 

ー普段はどんな作品を撮っていますか?

 作品では、日が落ちきった暗闇の中で建造物や廃墟を撮影するシリーズを続けています。
普段の作品は、受賞作のスナップショットとは真逆ですよね。
ロケハン後、夜中に出かけては現地でライトをセッティングして撮影しています。すごく楽しいです。長く撮影していきたいシリーズですね。

 

益 健二

花屋、テレビ報道局の現場、工場勤務を経て、フォトグラファーを目指した

ー写真を始めたきっかけは?

 大阪の服飾専門学校を卒業したあと、服飾、花屋、報道キャメラマンのアシスタント、工場勤務と転々と…我ながら一貫性がない(笑)。とても回り道しています。

写真に興味を持ったきっかけは、テレビ局で報道キャメラマンのアシスタントをしていた頃です。宿直室になぜか雑誌の『コマーシャル・フォト』があって、こんな世界もあるのだなと眺めていました。

ある時、同僚が「スチルのカメラマンに取材してきたけど、すごくかっこよかったよ! 同じカメラマンでも俺たちとずいぶん違う世界だぞ」と興奮気味に話してくれて。

その話を聞いて、スチルに憧れを持ったんです。それまで意識していなかったけれど、母が写真の仕事していたことを思い出して。思い返してみると、写真やカメラが生活の一部だったんですよね。

一眼レフを買って友人や身の回りのものを撮影していたけど、やっぱり仕事にしてみたくて。
ポートレイト撮影の会社へ入った後、独立しました。その時、張り切りすぎて機材をたくさん買ってしまい、機材代の支払いのために、今度は工場で働くことに…。

フォトグラファー以外の生活に馴染みそうになっていた時に、友人から発破をかけられて一念発起して東京へ。フォトグラファーアシスタントを経て、広告写真・映像を撮影する会社に入りました。

直近の目標は、初個展を開催すること

 

ー今後について教えてください。

 初個展を開きたいですね。建造物シリーズの他にも撮り続けているシリーズもあるし、タイミングを見て発表したいです。

観る人によって写真や作品についての考え方、理解度、スタンス、好み…個々に違う中でいろんな意見があると思います、でも僕にとって作品は撮る側、観る側どちらにとっても、心のよりどころになるものであって欲しいと思っています。

そんな作品が撮れるようAPAアワードの作品部門の最高賞を受賞した重みを良い刺激に変えて撮り続けていきたいです。

 

 

益 健二

益 健二 Masu Kenji
1986年生まれ。高知県出身。大阪モード学園卒業後、メンズアパレルメーカー、花屋、報道カメラアシスタント、大阪府内の写真スタジオ、四日市で合成樹脂工場を経て上京。フォトグラファーアシスタントを経て、広告撮影制作会社2055入社。
https://www.kenndeomas.com/