APAアワード2025 広告作品部門 経済産業大臣賞 岡 祐介氏インタビュー
APAアワード公募展の受賞からはじまった
ご経歴について教えてください。
岡 1980年生まれで、東京都調布市で育ちました。子どもの頃は野球に打ち込んでいましたが、満月の光で写真を撮る試みをしている写真家・石川賢治氏がたまたま友人の父で、その影響で写真に興味を持ち、大学は日本大学芸術学部の写真学科に進学しました。調布という土地柄、日活や角川大映スタジオが近く、映像や写真に親しみがあったことも影響しているかもしれません。
本当の意味で写真にのめり込んだきっかけは、大学2年次に中国・西安を旅した時、現地の方々と交流しながら撮影した体験。「多くの人に作品を見てもらいたいなら広告だ」と思い、博報堂フォトクリエイティブ(現・博報堂プロダクツ フォトクリエイティブ)に入社し、高橋秀行氏に師事しました。実は駆け出しの頃にAPAアワード公募展で受賞したんです。仕事関係の知人から「出てたね。一緒に作品作ろうよ」とたくさん連絡をいただき、それがキャリアのスタートとして大きかったですね。
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フォトグラファー : 岡 祐介
「部長とは、」 4枚組作品
リアルな没入感や、見る人に想像してもらえるような曖昧さ
受賞作はどのようなクライアントさんでしょうか?企画の背景も含めて教えてください。
岡 「カロリーメイト」の大塚製薬株式会社さんがクライアントです。部活動の部長にフォーカスした青春応援キャンペーンの企画として、デジタルサイネージとして掲出された広告です。アートディレクターは博報堂の野田紗代さん。撮影している段階では見通しきれない部分もありましたが、3枚を並べた時の黒の入り方や視線の流れがあり、かつ1枚ずつ独立していても成立する、面白みがある作品になったと思います。
撮影で大変だったことや、印象に残っているエピソードは?
岡 特定の高校が判別されないよう配慮しつつ、リアルな部活動の雰囲気を大切に撮影しました。意識したのは、誰もが学校の廊下や教室で見たことがあるような、身近な「視界の中の前ボケ」。同じ部活の、あるいは全く関係ない生徒が、「今、何かが起きてるな」という気配を感じ取る視点――よりリアルな没入感や、見る人に想像してもらえるような曖昧さを意識しました。
機材の選択について、教えてください。
岡 この作品は、本番で撮影したカットは全てフィルムで撮影しています(35mm, 160C)。現場確認用として、デジタル(Nikon D850)をポラ代わりに併用しています。
2月7日、APA事務局でのインタビュー動画より
譲れない表現に、できる限りこだわり抜く
撮影時に気を使った点、いつも注意を払っていることなど教えてください。
岡 被写体が一瞬、ふと気が抜けたような瞬間や、気持ちがグッとが入った瞬間の、自然な表情を捉えることを大切にしています。見逃してしまいがちな、ちょっとした変化を捉えることについて、細心の注意を払いながら撮影しています。駆け出しの頃は「いかに美しいライティングで作り込んだ撮影ができるか」に重きを置いていましたが、いまは偶然性を大事にしようと思っています。
広告写真を取り巻く状況が変わってきている今、写真の撮り方や意識の変化はありますか?
岡 媒体が紙であれデジタルであれ、結局「目を引くもの」といった点では同じだと考えています。だから僕自身のアプローチはそこまで大きくは変わらないですね。ただ、時代の流れによって写真のトレンドは変わってきたことは事実です。デジタルカメラが普及した直後はiPhoneで撮る新鮮さがありましたが、それが当たり前になったら、次にフィルムカメラやインスタントカメラが流行ったり、最近だと2000年代のコンデジが再評価されている流れがあります。そういうトレンドは常にありますよね。
僕の場合は、写真を撮り始めた頃の35mmフィルムの質感が今でもしっくりきます。今回の受賞作も、その感覚を大事にして撮影しました。僕にとってはフィルムが自分らしい表現の一つです。とはいえ、現実的にはデジタルが前提なので、入稿までのスケジュールがどんどん短くなっていて、広告写真においてフィルムで撮ることはかなり難しくなってきています。それでも、譲れない表現があるなら、できる限りこだわり抜きたい。それが今回評価してもらえた部分でもあると思うので、これからも大事にしていきたいですね。
アートディレクターやデザイナーなど、多くのスタッフと作り上げる広告写真の魅力は、どういったところにあるでしょうか?
岡 やはり、大人数で作り上げることのが広告の大きな魅力ですよね。それぞれのプロフェッショナルが集まって、「このメッセージを写真と言葉でどう表現するか」と志を共にするプロたちと一緒に作れるのは、広告写真ならではだと思います。広告表現は、若い方にとって制約がある分「難しい」と思われがちかもしれませんが、近年では、新しい表現や、個人が持つエッセンスを抽出して写真に起こそうと試みている受賞作品が見受けられます。同じ志を持ったフォトグラファーが増えていけば、広告業界としての表現の幅が広がっていくと思います。
2025年3月1日 授賞式 東京都写真美術館にて
人間がつくる不完全さの魅力
今後の展望について教えてください。
岡 最近、ライカさんと一緒に作品を撮る機会があって、盆栽をテーマにした作品を作りました。今までの自分の視点をもう一度見つめ直すきっかけになりましたし、作品を通じていろんな人と話ができたのも面白かった。「広告の岡さんのイメージと違いますね」とか、「どういう意図で撮ったんですか?」などの会話を通じて、写真ってコミュニケーションのツールとしてすごくいいなと純粋に思いましたね。
今後の写真のあり方を考えると、AIの話は避けて通れませんが、人間が作るものは不完全だからこそ魅力があると思っています。人間が関わることで生まれる偶然性や些細なズレにこそ価値があると思いますし、写真には「記録」としての役割もあります。今は当たり前にあるけれど、いつか失われてしまうかもしれないものをちゃんと撮って残していくことが、これからの自分の役割なのかなと思います。具体的には、今後は広告だけでなく、パーソナルな作品も発表していきたいですね。
応募を考えている方に向けてメッセージをお願いします。
岡 APAアワードは若い頃からずっとチャレンジしていた賞だったので、今回、このような賞をいただけて感慨深いです。賞を目指して作品作りをすることはフォトグラファーとして良いステップアップになると思うので、ぜひ皆さんも楽しんでチャレンジして欲しいですね。
文責:青山波瑠香(フリーライター)
写真(会場):松本岳治(APA会員)
写真(岡氏):馬場亮太(APA会員)